犬の目は色を識別することができず、すべてがモノトーンで見えていると聞いた。最近では、実は色が見えているという人もいて、何が本当かはわからないが、この世界の中にモノトーン(に見える)エリアがあるのは事実であるようだ。
サーフィンの帰りなどに田舎の道をドライブしていて、白黒だけで彩られた墨絵のような景色に遭遇することがある。徐々に光が失われていく物悲しい時間帯で、以前はあまり好きではなかったが、ある時期から一転してマジックアワーの、特に後半を好むようになった。暗闇の後に必ず朝が現れることを長い時間をかけて学んだのだろうと自分では思っている。思考のスピードが遅いのでモノを理解するのに時間を要するんだ。
花屋でDJさせていただく機会を得た。友人のフォトグラファーが撮影した花の写真を何となくモノトーンに加工してみたら、その美しさに息を呑んだ。犬たちの目には花がこんな風に見えているのかと思うと少し羨ましく感じる。淡い青のブルースターとか、微妙なピンクのバラとか、全てが灰色に見えてしまうのは、残念な気もするけれど。
30年ほど前に東ヨーロッパのどこかの国を訪れた時、街全体がどんよりと、建物も空も人も酒場も煙草も、何もかもがモノトーンに見えたのを記憶している。その時の自分に、後に壁が崩壊して、街に光が、色が戻ってくることを想像する力があったなら、その暗い白黒の世界をもっと美しいものとして捉えることができたかも知れない。