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サーフィン日記

強風がひゅうひゅうと上空を渦巻いていた。雨戸が揺れ、どこかで物が倒れる音がした。ベッドから出るのに勇気のいる朝だった。今日はサーフィンはダメだなと思った。カフェオレをいれ、焼いたトーストにジャムを塗って、途中まで観た映画にチャンネルを合わせた。ちょうど主人公が悪の巣窟に喧嘩を売りに行くシーンだった。ポールダンサーが胸もあらわに踊っている姿が映し出されるのを見てスイッチを消した。娘たちがいつ2階から降りてくるかも知れない。学校も仕事も休みなのだ。

予報を見ると、嵐のような風にもかかわらず、海のコンディションは悪くなさそうだった。そこそこのうねりがあり、穏やかな北風で面が乱されることもないとあった。

9.5フィートのシングルフィンを車に積んで出発した。セブンイレブンに寄ったら大きいサイズのペットボトルのミネラルウォーターが全て売り切れだった。500mlのを2本とバナナとコーヒーを買って高速道路に乗った。相変わらず風は強かったが空は快晴で気温も20度近くあった。もし波がなかったらビーチで日光浴すればよかろう。

高速道路の車線規制の影響で少し渋滞があった。ふと、制作中のトラックに叫び声のSEが欲しかったことを思い出し、録音するにはちょうどよい環境であることに気がついた。スタジオに入るほどの大仕事ではないが、自宅で叫んだらきっと通報される。録音の機会がなくて先送りになっていたのだ。

狂人のように雄叫びを上げ、その様子をiPhoneで録音した。心拍が早くなり、体温が上昇するのを感じた。パーカーの中に着込んだ下着にうっすらと汗が滲むのがわかった。

駐車場で準備をしていると、後からやってきた同い年ぐらいのサーファーがブーツは必要かと聞いてきた。私は末端冷え性なので(普通ならいらないと思います。)と答えておいた。日常生活の中で見知らぬ他人に声をかけられることはまずないが、海の近くではよく話しかけられる。

予報通り、風はさほど強くはなかった。天気のよい春の海日和だった。水はまだ冷たかったけど手袋が必要なほどでもない。ただ北風というのは嘘で完全なオンショアだった。おそらくこの時間帯までコンディションが良かったのだろう、けっこうな数のサーファーが海に浮かんでいた。なるべく人の少ないところから入ったらカレントがあってあっというまに沖に出た。オンショアの影響で押しつぶされたぐちゃぐちゃの波ばかりだったが、とりあえず来たやつを捕まえたらぐちゃぐちゃのまま波打ちぎわまで連れて行ってもらえた、乗った波はプルアウトせず最後まで丁寧に、砂浜にフィンが突き刺さるまで乗る、が信条のひとつ。友人の受け売りだがそれがかっこいいと自分では思っている。

こんにちは。目があったサーファーと挨拶を交わす。日常生活の中で目があった人に挨拶する習慣はないし、だいたい街では誰も私と目をあわさない。

コンディションはどんどん悪くなり、風も流れも出て、浮いているだけでもしんどくなってきた。サーファーがどんどん上がっていくのでスペースはできるが、肝心の波がないではどうしようもない。

ボードを浜に上げ、いい感じに転がっていた石に腰かけ、ビニール袋に入れて持ってきたバナナを食べた。波にあぶれたサーファーたち、手を繋いで歩く若い恋人たち、平日にはめずらしい家族連れの姿もちらほら見えた。

目を閉じるとオレンジ色だった。波や風の音を感じながら黒点が泳ぐのを追いかけ、しばし「何も考えない」ことに集中した。不安や恐怖や虚無がかわるがわるやってくるのを跳ね除けているうちにペンギンにたどり着いた。無の象徴をピクチャーするにペンギンはあまりにも実在的すぎたが、それでもわけのわからぬ恐怖に取り憑かれるよりはずっとマシだった。2羽のペンギンはしばらく宙に浮かんでゆらゆらしていたが、やがてオレンジ色に飲み込まれ、そのオレンジも次第に色褪せ、波の音だけが暗闇の中に残されてじゃぶじゃぶしていた。

目を覚ますと海の様相は一変していた。肩ぐらいのサイズの波が幾重にもなって押し寄せて、崩れ落ちた泡が波打ち際を白く彩っていた。誰かが放置したビーチボールが左からやってきて私を目の前を横切り、右の方に転がって行った。風が東に回ったようだった。どこに姿を隠していたのか、ショートボードのサーファー達が波のにおいを嗅ぎつけて、続々とビーチに集まり始めていた。

外から見ているよりも波は大きく、休む暇なくやってくるので、海に出るのに難儀した。目の前を、長身でバケツハットをかぶったサーファーが、上手に波とやりくりして、ニーパドルであっという間に沖に出て行った。前にも見たことがあるサーファーだった。上手い奴は存在感が違う。それにその男はドイツ語を喋っていた。この辺の海でドイツ語を耳にすることはとても珍しい。

東からの風を押し除けるぐらいパワーのある波だった。ほとんどパドルせずに波に押されるようにテイクオフして、削るように斜面を滑る。バランスを崩して振り落とされたところに別の波がやってきた。そのまま乗って岸まで行った。苦労して沖に戻ったらサーファーの数が3倍ぐらいに増えていた。内側にもショートの連中がたむろし始めていた。渋滞のエリアを諦め横にそれたエリアの少し内側にポジションを取り、小さめの波と戯れることにした。

狙いをつけた波に左からやってくるサーファーが視界に入った。距離はあったが流したところ、男が笑顔をよこしながら滑っていった。フィニッシュした後に男が振り返ってまた笑った。しつこいようだが、街で私に笑顔をよこす人間はいない。

良い状態は長くは続かなかった。波は突然なくなって、風に煽られたぐちゃぐちゃ状態に戻っていた。空を見上げるとナマコのような形をした邪悪な黒い雲が東から押し寄せてくるのが見えた。雲から飛び降りるように雨が降り落ちている様子も見て取れた。思い残すことはない。潔くリーシュを外し、深くお辞儀をして海を後にした。

着替えを済ませて駐車場を出たら先ほどの黒い雲はすっかり姿を消していた。波もまた少し良くなっているように見えた。

となりのビーチまで車を走らせ、以前に行ったことのあるカフェに足を運んでみた。混雑していたらやめようと思っていたが、幸いお客の姿はなかった。テーブル4台ぐらいの小さな店で、いつもウクレレ音楽が静かに流れている。無口で少々人相の悪い店主(どこからどう見てもサーファーだ。)が、美味しいパンを焼き、コーヒーをいれてくれる。開け放たれたドアから柔らかな風がそろりそろりと入ってきていた。吊るされたハワイの木の風鈴が揺れてポコポコと可愛らしい音を奏でていた。

ベジタブルバーガーを口に放り込んでむしゃむしゃやっていると、母と娘の親子連れがやってきた。母親は40ぐらい。娘の方は小学生高学年といったところか。娘はアイスティーを注文し、慣れた感じで席を取り、リュックサックからノートや文房具を取り出して宿題か何か勉強を始めた。母親は何も注文せずに行ってきまーすと言って店を出ていってしまった。出ぎわに私の方を見てちょっと笑ったような気がしたが、一瞬のことで反応できなかった。人に笑顔をもらうことに慣れていないのだ。

母親がサーフィンをしている間、娘は宿題をして待っているということなのだろう。女の子にお小遣いをあげたいような気持ちになったが、もちろんそんなことはせずに黙ってバーガーを食べ、コーヒー飲み、デザートにイチゴと生クリームの乗ったデニッシュを食べ、勘定を支払って店を出た。ごちそうさま。

駐車場に戻ると、隣に停めた車がちょうど出るところだった。私のと同じ古いホンダの車だった。同じ車なんて珍しいよねえ。と男がわざわざウインドーを開けて話しかけてきた。そうですね。と、出来る限りの笑顔を作って答えた。もう27万キロ走ったよ。と男が言った。そりゃすごいですね。僕の倍だ。と答えた。我々のホンダは中途半端にオフロードなデザインが受けず、あまり売れないうちに製造中止になったモデルで、確かに海で見かけることはほとんどない。弟が車を買い替える時にくれたのをもう5年ぐらい乗り続けている。このぶんだとあと5年ぐらいは乗れそうだ。

都心に近づくにつれ、また風が強くなってきた。おそらく東京は強風に翻弄される1日だったのだろう。得したような気もしたが、少し申し訳ないような気分でもあった。日に焼けた顔や首の皮膚が心地よくヒリヒリしていた。

ツアーレポート(ビデオレター)

2019年、クリスチャン・デスのヨーロッパツアーのレポート総集編。SNSを通じて友人らにツアーの様子を報告するためにiPhoneで撮影していたビデオをまとめました。1時間と長いですので、お時間のある時にご覧になってみてください。

え、マジ?

さて、4月に参加するクリスチャン・デス北米ツアーの内容が徐々に明らかになってきました。

メインイベントは何と言ってもコレになるでしょう。ラインナップ見てさすがに驚きました。これ自分が出演しなくてもけっこうな事件だよね。80年代ポストパンク界隈では近年で一番大きなニュースだと思います。ぶっちゃけ、よくもまあ実現したなあとプロモーターの手腕に素直に感心してしまいます。

中でも特筆すべきはPUBLIC IMAGE LTDの参加。何と言っても僕が「ロマンス」なのはP.I.Lの「Flowers of Romance」がルーツなんでね。原点の中の原点。自分が同じイベントに出演することになるなんて、はるかに想像を超えております。人生は本当に何が起こるかわかりません。

開催は5月2日(土)ロサンゼルス。ゴールデンウイークなんでね。お休みとってぜひ応援しに来てください。詳細はイベントのオフィシャルサイトにて

追記:同フェスのチケットは発売開始から即日完売したそうです。

初老パンク、今度はアメリカを征く

ツイッターやフェイスブックなどでちょくちょく見かける「情報解禁」という言葉がある。ライブイベントなどの案内をお知らせする際にアーティストたちがよく使う。まあこう言っちゃ何だけど売れてない奴ほど使いたがる。

情報の開示をもったいぶるのであれば「解禁」される情報もそれなりでなくてはならない。シロートのライブ情報なんぞ、誰も期待してないのにわざわざ勿体ぶる様子は滑稽で、やめればいいのにと思う。思うが、気持ちはわからんでもない。

昨年のヨーロッパツアーに続いて、この春、古巣のゴスバンド、クリスチャン・デスの北米ツアーに参加することが決定した。例によっておそらく何の話題にもなるまいが、自分的にはまあまあ大きなニュースなのでここに記しておく。

前回はほとんど記録を残さず、すでに自分の記憶からも消えつつある。ちょっと勿体無い気がする。今回は「ツアー日記」のようなものを記しておこうと思っている。このブログを使うか、ツイッターなどのSNSにするか、オフラインのメモ書きとかにするか、ちょっと迷っている。

写真はヨーロッパツアーでのひとコマ。35年前のデビューの地=ロンドンはカムデンのクラブの前にて。撮影はロンドン在中の日本人フォトグラファーSHU TOMIOKAさん。

追記:いろいろ考えてKOTA(私の海外でのDJネーム)のツイッターを今回のツアーの記録用に使うことにした。もともと備忘録用に特に告知もせずに使用していたアカウントで、ほとんどフォロワもいない。

今年最後のDJは東京湾クルーズ

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今年は初の海外DJツアーを敢行し新展開があったものの国内での活動は尻すぼみ、DJとしてはイマイチぱっとしない1年になってしまいました。しかし懲りずに来年もやりますよ。たぶん今後は海外での活動に軸足を置くようになる気がしています。ともあれ1年間大変お世話になりました。最後は東京湾クルーズ。せっかくなんでね。少しおめかししていらっしゃるとよいかも知れません。

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”EXTRA+”シリーズは東京アンダーグランドジャズシーンの重要人物=TOSHIHIRO ONOさんが手がける東京湾ナイトクルージングイベント。

EXTRA+FRIDAYではマックロマンスがレギュラー出演しています。

12月20日のマックロマンスは、シンガーで詩人のChihiro SingsさんとのDJ+ポエトリーリーディングのスペシャルセッション。音のループとポエトリーで東京湾上の時空間を美しく演出します。他にもTOSHIHIROさんが厳選したDJやミュージシャンが集結。クリスマス前の金曜日にふさわしい特別な夜をぜひご体感下さい。

MACROMANCE feat. Chihiro Sings in EXTRA+FRIDAY

12月20日(金)at JICOO THE FLOATING BAR

■TIME:
19:30-23:00
Hinode Pier | 20:00 21:00 22:00
Odaiba Seaside Park | 20:30 21:30 22:30
船は日の出桟橋とお台場を往復しつつ30分おきに着岸しますので、どのタイミングからでも乗船可能です。
■VENUE:
Jicoo The Floating Bar
http://www.jicoofloatingbar.com
■CHARGE:
2,600yen (Floating Pass)
フローティングパスは船から降りない限り乗り放題です。料金には乗船料、エンターテインメント料が含まれます。
■MUSIC SELECTOR:(予定)MACROMANCE feat. Chihiro Sings / MORIKEN / TOSHIHIRO ONO / Airi

And more…

ご予約はマックロマンスまでダイレクトメッセージお願いします。

DJのお知らせ

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偶数月第3金曜に東京湾に浮かぶ船上で開催しているEXTRA+FRIDAY。

皆さまをおもてなしするメンバーは、おなじみのDJmacromance、MORIKEN、Toshihiro Onoに加え、EXTRA+LIVEとして『bwpとファンキーヘッドライツ』が登場。
JICOOにぴったりのアーバンだけどちょっとポップでファンキーな演奏で、秋の空間に彩りを添えてくれます。

秋の夜長に、美味しいお酒を片手に、良い音楽とひと時の語らいをお楽しみください。

船の上でお待ちしております。

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EXTRA+FRIDAY 20191018@JICOO

■TIME:
19:30-23:00
Hinode Pier | 20:00 21:00 22:00
Odaiba Seaside Park | 20:30 21:30 22:30
船は日の出桟橋とお台場を往復しつつ30分おきに着岸しますので、どのタイミングからでも乗船可能です。

■VENUE:
Jicoo The Floating Bar
www.jicoofloatingbar.com

■CHARGE:
2,600yen (Floating Pass)
フローティングパスは船から降りない限り乗り放題です。料金には乗船料、エンターテインメント料が含まれます。

■EXTRA+LIVE:
bwpとファンキーヘッドライツ

■MUSIC SELECTOR:
DJMACROMANCE / MORIKEN / TOSHIHIRO ONO

 

存在感の欠如

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電車や街で知り合いを見かける。こっちは100メートルも先から相手を認識しているのに、そちらは真横をすれ違ってもこちらの存在に気がつかず何だか悔しい。イベントの告知でフライヤーやSNSの記事などに名前を入れ忘れられる。一度や二度ではない。そっちから出演を依頼しておいて、そのことを忘れたわけだ。注文した料理が僕の分だけ運ばれて来ないということもよくある。みんながデザートを食べている時間帯にようやく届いたメイン料理をひとりでもぐもぐやっている姿を想像すると我ながら哀れだなと思う。

それもこれも要するに存在感の欠如が原因ということになろう。自分ではけっこう頑張っているつもり(赤いシャツを着たり、ロン毛を編み込んでみたり)なのだけど、存在感というのはもっと内面から湧き上がってくる類いのものであるらしく、まあ何をやっても他人からの印象は薄いようである。

人にどう思われるか?ということだけを念頭に、長い間生きて来たわけなのだけど、人からはどうも思われていない、目にも入っていないというのが、その答えで、こんなことなら他人の目など気にせずに自分の好きなことだけを追求し続ければよかったと思う。

ヨーロッパをぐるりと周ってみたところ、イタリアやドイツに僕のことを気にかけてくれる特殊な人種が存在することを知った。イギリスにも少し、ルーマニアやアメリカにもいるみたいで、彼らから届くメールやメッセージ(写真やビデオ、詩なんかも送られて来る。)に何度も目を通し、自分の存在を確認し、他人から承認されたいという欲求の足しにしている次第である。(自分という人間の存在を確認するのに他人の目が必要というのは奇妙なもんだな、なんて考えたりもする。)

きのう、都内を車で移動していたら、パトカーに停車を求められ、そのまま職務質問を受けた。警官が4人も出てきて、道路が渋滞していたこともあり、ちょっと周辺が騒然とした雰囲気になった。買い物中のおばちゃんとかこの時ばかりは地味な僕も他人からの視線を感じた。警官らが僕に何を求めていたのかは知らないが、少なくとも彼らの目に僕は「認識」されたわけだ。こんなにありがたいことはない。

職務質問を受けることって普通の人は人生で何回ぐらいあるんだろう?僕は数え切れないぐらいある。日常生活では全く存在感のない僕だけど、警察官の目にはちゃんとひとりの人間(あるいはそれ以上)として見えているようである。将来はイタリアかルーマニアのリゾート地にでも住んで、退役した警官をボディーガードに雇って暮らそうと思う。エルビスプレスリーの衣装みたいのを着て。