皿洗いのつぶやき

BLUESNIKことハンザワさんが我が家のスタジオに遊びに来てくれた。DJとしては30年近くのキャリアを持つ大先輩なのだけど、近年はほとんど活動していない。尖りすぎた選曲スタイルについて来れる雇い主がいないのだと僕は思っているが真実は知らない。

持参したレコードをミックスしながら、そのセオリーをこと細かにレクチャーしてくれる。ハンザワさんのプレイはいろいろ凄くて普通のDJの10年ぐらい先を突っ走っているが、最近ではヘッドホンすら使わない。つまり次にかける曲を全くモニターせずに、それでもうまい具合に違和感なく曲をポンポン繋いでいく。とても真似できるものではない。やり方を教えてもらっても真似できない。

20分ぐらいだろうか、わりとまともな流れが続いているなと思っていたら、そのまま終わるわけがなく、途中で暗黒モードに入っていく。ただ「暗い」とかだけではない。ひとことで言えばすごくダサい。もちろん本人はよくわかってやっている。「この辺でお客さんがだんだん怒り出すんだよね。」とか言って、最初から客の怒りがセオリーの中に入っているらしい。

15年かそれぐらい前に、シャンパンのヴーヴクリコのイベントでデュランデュランをかけて、雇用主にこっぴどく怒られていた。当時は80’s音楽はDJのネタとしてはタブー扱いされていた。今やそれが王道中の王道であることを一体誰が予測しただろう?その後も、ジャズフュージョン、ディストーションギター、日本のニューミュージック。タブーに挑戦しては、顧客やクライアントを怒らせ続けてきた。十八番にホラー映画のサスペリアのテーマ曲なんてのもあって(あれをレストランとかでカップルやファミリーが和やかに食事をしている後ろに流すのである。)顰蹙を買っていたが、サスペリアはその後リメイク版が制作され、音楽は何と、かのトムヨークが担当したことで脚光を浴びた。みんながハンザワさんを追いかけているのである。

僕はDJは基本的にはアーティストではなくて、皿洗いやバーテンや警備員と同じ、お店やイベントのスタッフのひとりと思っている。つまり顧客やクライアントが喜ぶような選曲をするのが正しいスタンスだと考えている。東京ではレストランやバーのBGMの依頼が多いから、必然的にジャズ中心のラウンジ系の楽曲におさまる。クライアントにもいろいろいて、例えば、クリスチャン・デスのヨーロッパツアーの時はハードでディープなエレクトロ/ダンス/ミュージックというオーダーが入ったので、それに対応した。店によって皿の洗い方にもいろいろある。オーガニックな洗剤を使えと言われればそうするし、食洗機があるなら、その使い方を学ぶ。

それで、楽しいのか?と聞かれれば、別に楽しくはない。他にやることもないし、できることもない。声をかけてもらっているからやっている。どこからもオファーが来なくなったらやめるしかない。ハンザワさんのような究極のアーティストタイプのDJとは取り組み方が全く異なる。正直言って少し、いや、かなり羨ましいが、僕に彼の真似はできない。

僕にはやりたいこと(創りたいもの)が何もない。あるふりをしてずっと生きてきたけど、実はない。これを書いていて、それに気がついた。おもしろいな。ハンザワさんのことを紹介しようと思って、こんな話になった。

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