映画「ムード・インディゴ うたかたの日々」を録画で観た。タイトル通り、ボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」が原作。同書は自宅の書庫に長く収まっていて、たしか詩集だと思ってたのだけど、映画を観た後に、ひっぱり出してみたら、全然記憶違いだった。未読だった。たぶん家族の誰かが入手したものが、僕の書庫に紛れ込んだものと思われる。本の方はまださわりの部分しか目を通していなくて何とも言えないが、映画は、わりと原作に忠実に再現されているように感じている。
冒頭の印象は「ブッ飛んでる」。でも、ストーリーはしっかり構成されていて支離滅裂というわけではない。レトロなムードと現代アートな感覚を融合させる手法は、現在、個人的にとても興味を持っている音楽「エレクトロ・スウィング」に通ずるように思えた。いちいちお洒落なんだ。
そう言えば、つい最近、モーターショーでシトロエンが、昔のDSのボディーそのままのデザインに現代のテクノロジーを詰め込んだ「古くて新しい」新車を発表したニュースを見たばかり。単なる懐古主義ではなくて、趣味よく時と時をつないで、全く新しいモノを作り出す感覚にフランス人は長けているように思う。
ヒロインは言わずと知れた「アメリ」の主役=オドレイ・トトゥ。森の奥に住んでるお姫様みたいなムード。何とも不思議な魅力を持った女性である。この人のためにわざわざストーリーを書き下ろしたんじゃないかと思うぐらいのハマり役と感じた。
全体として「こんなのありえない」シチュエーションの中で物語が展開する中、僕たち誰にでも起こりうる不運な出来事がキーポイントに使われていて、観客はいやがおうにも、その悲劇の中にずるずると巻き込まれてしまう。幸であれ不幸であれ、ものごとを伝える際のポエティックで美しい表現方法が、この作品の醍醐味なのかしら。原作と映画のどちらがそれに差し響いているのかは、小説の方を読んでみるしかない。
見終わった後に気分がよくなるタイプの映画ではない。事実、僕はけっこうやさぐれた。
ひとまず、ボリス・ヴィアンの原作を読んでみようと思う。映画みたいな感じだったらかなり好みのはずだと思う。