こないださ、大手町を歩いてたの。ビームスがあったから何となく入ってみたらいい感じのセットアップを見つけたわけ。エンジニアードガーメンツ。ベッチンのね。ちょっとフォーマル風の。いいなと思ったけど、衝動買いではもう何回も失敗してるから、その日は何も買わなかったんだけど、そのあと何日たってもそのセットアップのことが忘れられないんだ。で、エンジニアードガーメンツの青山路面店に行ったんだ。ここにはかっこいいスタッフがふたりいて、映画の中に入ったみたいにムードいいから、どうせ同じ物を買うならこっちの方がいいんだ。ところが残念ながらお目当てのパンツは、すでに僕のサイズが売り切れていた。
冬服は寒くなってから買いに行ったのでは遅い。のは鉄則だって言うけど、やっぱり真夏にウールやベロア素材の服を試着する気にはなれないよね。だからいつも出遅れるんだ。
そもそも身長185cmぐらいの男たちをスタンダード据えた業界。僕のようなチビすけは常にサイズとの戦いなわけ。海外のブランドなんか最初っからマイサイズないもん。ま、幸いEGではXSが展開されてて、これが僕のジャストサイズ。つっても最初から数が少ないから今回みたいにサイズなし売り切れ御免。てケースは珍しくない。
さて、欲しかったセットアップのジャケットの方は僕のサイズが1着残っていた。試着もバッチリだったけど、上下揃ってないのでは意味がないからね。縁がなかったと思うしかない。店員が親切にお目当てのパンツがあるかも知れない全国のセレクトショップの電話番号をメモに書き出して渡してくれた。
帰り道に原宿のフリークスとビームスとアローズに寄ってみたんだ。フリークスでは取り扱いがなかった。代わりにEGに別注かけた商品がけっこうあって、たぶんそっちを売りたいんだろうって思ったよ。アローズには色違いのがあった。グリーン系とあと豹柄と。この豹柄のセットアップがまた物議をかもすことになるのだけど、それはずっと後の話だね。どっちにしても僕が欲しい黒はなかった。もしかしたら売り切れたのかも知れない。ビームスにはあった。でもやっぱりサイズ違いだった。
手に入らないと思うと欲しいと思う気持ちがますます強くなる。それから何日かはパソコンの前に座って全国のセレクトショップのサイトをくまなく渡り歩いた。でも、なかった。30インチのヴェルヴェティーンのパンツはどこにもなかった。あきらめかけた時にふと、大手町のことを思い出した。そもそもストーリーが始まったのは大手町だもんね。それに大手町って無難な服着たサラリーマンと地方や海外からの旅行者しかいないようなエリアだ。エンジニアードガーメンツの服を買う人そんなにいないと思う。よし、スタート地点に戻ろう。そう思ったわけ。
で、Googleで電話番号見つけて電話したんだ。そしたら電話先「有楽町店です。」と言う。あれ間違えたかなと思ったら、それが違って、何と閉店したんだって。で、電話が自動で転送されたんだね。そんなことある?1週間前は普通に営業してたのに。でも、ないならしょうがない。よっぽど縁がなかったんだな。と、あきらめかけてたら電話の先「何かお探しの商品でも?」って、そうだよね。別に店が燃えてなくなったわけじゃない。商品はどっか他のブランチに移されてるはずだ。で、例のパンツのことを聞いてみたら「ございます。」と来た。
あっけないね。あるんだってさ。30インチ?「はい30インチです。」すぐさま取り置きをお願いして大手町へ、いや有楽町に向かったわけさ。ちなみにジャケットはあるか聞いてみたらSサイズはあると言う。いや欲しいのはXSなんだけどな。でもまあこの時点ではもう僕の脳内はモルヒネがじゃぶじゃぶ出ちゃってるから、まともな判断ができないの「それもおとり置きお願いします。」って何を言ってんだかね。
有楽町に着く頃には多少冷静さを取り戻してた。例のガーメンツの青山の路面店に電話してXSサイズのジャケットがあるか聞いてみた。返事は「残念ながら。」そうだよね。そりゃそうだ。ここ数日ばかりパンツを探すことばっかりに集中しててジャケットのことあまり気にしてなかったけど、要するに見つけた時点で買っちゃわないと次に欲しい時にはもうないの。上も下も関係ないんだ。
結局ビームスプラス有楽町店で30インチのパンツとSサイズのジャケットを買った。ジャケットは少し大きかったけど、まあ冬で下に何枚か着ることを思えば適正サイズと言えないこともない。でも何だろう?この納得のいかない感じは。もやもやしながら駅に向かって歩いているうちに腹が減ってることに気がついた。ガード下に定食屋があってメニュー見たら食べれそうなものがあったから入った。ほら僕は肉を食べないだろ?外で食事するのにけっこう苦労するんだよね。ま、こっちの勝手だからしょうがないんだけどさ。
海鮮丼ってのを注文してiPhoneでFacebookを見たりするんだけど、心のもやもやが消えないわけ。で、Googleで検索してみたんだ。エンジニアードガーメンツ、velveteen。この1週間毎日のようにパソコンで打ち込み続けたキーワード。でね、そしたら見つけたの。地方のセレクトショップのサイト。velveteen。XSサイズ。あるんじゃん。運ばれて来た海鮮丼をお茶で喉の奥に流し込んで、さっさと勘定済ませて外に出て、そこのサイトのショップに電話する。これがつながらない。じゃあもうオンラインで買っちゃえってことになるんだけど、ねえ君、iPhoneでオンラインの買い物したことあるかい?もともと僕はiPhoneで入力するの苦手なんだけど、めちゃくちゃめんどくさいんだなこれが。ふりがなだのカード情報だの、ようやく入れたと思ったらミスタッチで画面が消えちゃったりして。
高架下の柱の所にちょうどいい感じの日だまりができてたんで、そこで立ったまま15分ぐらい格闘したかな。ようやく購入手続きまで終わったんだけど、それではまだ信用できない。ほらオンラインショッピングって何かとトラブルあるじゃん。実は在庫切れでした。とかさ。それに何回も手続きやり直したから2着注文したことになってたりするかも知れないし。ショップに電話したら、でもやっぱり注文が確定してないって言う。ほらね。でも、それはテクニカル的なタイムラグのせいだってことがわかって、ちゃんと口頭で「すべて確認しました。すぐに配送いたします。」って言ったの聞いて、ふうっと息ついたらたらこう、遠くのビルとビルの隙間から青い空と白い雲が見えた。その日はさ、いい感じの秋晴れだったんだよね。
買ったばかりのSサイズのジャケットをビームス有楽町店に返品しなきゃいけなかった。ちょっと迷惑かけて申し訳なかったけど、たぶん理解の範疇だと思う。今回のセットアップは本当に人気があるみたいだから、僕よりも少し体の大きい誰かが、きっと今ごろ血眼になってSサイズ探してるはずだ。僕のよりもその誰かさんに着られる方が服だってうれしいと思う。
え?誰に向かって喋ってんのかって?そうだね。僕は君と会話してると思ってたんだけど、てことは全く聞いてくれてなかったんだね。あ、そう。ま、いいや。