オーストラリア発の帽子ブランド”MUHLBAUER”(ミュールバウアー)が創立111周年を迎えた。H.P.FRANCEでこれを記念した限定商品の販売が開始する。またブランドの奇跡を辿る書籍も発表。*以上、H.P.FRANCEのホームページより抜粋。
で、上記を記念したパーティーが開催された。と、ここまでは僕とは何の関係もないのだけど、パーティーの音楽演出を何とザ凱旋門ズが担当。と言ってもいつものライブのスタイルではなく、サウンドインスタレーションと呼ぶにふさわしい、よりストイックで実験的な手法。
会場は青山のギャラリー。20坪程度の長方形の無機質な空間。壁じゅうにブランドの帽子が等間隔でディスプレーされている。ウェルカムシャンパンを受け取り、会場の奥に進むと、凱旋門ズがすでにサウンドの提供を初めていた。それぞれの頂点が四方の壁を向く角度で設置されたガラス製の四角いテーブルを囲む形でメンバー4人が着席。白シャツに黒ネクタイ、ブランドのものだろうか全員が帽子を着用している。背景が白とあってモノトーンの衣装がよく映える。編成はライブと同じも、ドラムセットはなく(あったら大変なことになるけど)ドラマーのマイクはテーブルに置かれたA4サイズぐらいの木製の電子パーカッションのような楽器を素手でなでるようにしてリズム音を出している。鍵盤担当のヤスオ(まるでマッドプロフェッサーのような風貌)が扱うキーボードはピアニカぐらいのミニサイズ、音源はMacBookに収納されているようだ。開かれたブックの画面にはブランドのイメージ画像。コンダクトの主導はベースのアレクシィー取っているように思えたが、たまたま僕がいる時間帯がそうだっただけかも知れない。ミニマルにくり返されるベースのリフに静かに絡むビリイのギターの柔らかな音色、それに呼応するかのように出入りするメロディーのようなノイズのような電子オルガンの高音。音を足していくのではなく、音を抜くことによって生まれるスペース、音と音の間の距離感が4人の中で共有されている。音数は少ないのに何故か大きな編成のサウンドに聴こえる。音だけでなくバンドの存在感も十分。「ヨーロッパあたりで超有名なグループなんだよ。」と言えば、たいていの人は信じるぐらいの貫禄を見せていた。
個人的に凱旋門ズはプログレよりのロックバンドと解釈していたけれど、エレクトロニカの分野でも十分勝負できることが証明されたと思う。ファッションやアート、空間演出の世界と交差することを考えると、もしかしたらこのスタイルでブレイクしてしまうかも知れない。
凱旋門ズの対応力も凄いと思ったが、そもそも、本人たちでさえ人前で1回も披露したことのないパフォーマンスを、パーティー本番にいきなり導入したディレクターの感度が凄い。相当の想像力、相当の度胸と実行力を持ち合わせていないとこういうことはできない。今のファッション業界にはそういう人が少なくて、パーティーでもそこそこ名のあるミュージシャンがミニライブやったりして、それで客もまあまあ満足して帰る。何がファッションだと僕は思う。
ともあれ「実験」は大成功。個人的にはちょっと悔しい(僕にはとても真似のできない演出)のだけど、刺激はビシバシもらって帰ることができた。近い将来、凱旋門ズがクラフトワークやシネマティックオーケストラなどと肩を並べて活躍することを夢見つつ、貴重な時間をすごせたことを神に感謝するものである。