ちょっと前までは普通にベストと呼んでいた。最近はショップでもファッション誌でもジレと呼ぶことになっている。つまりはチョッキのことである。ベストとジレの違いを調べてみたら、諸説あるものの、ベストがアメリカの呼び方で、ジレがフランス読み、という部分は共通しているようだ。ファッション用語としては、ベストはジャケットのようにアウターとして着ることができる外着で、ジレはあくまで中衣としてシャツとジャケット間に着るもの。とする説が発表されていたが、今ひとつ説得力に欠ける気がする。
ズボンがパンツになったり、スパッツがレギンスになったり、要するに日本のファッション業界の中での言葉のトレンドにすぎないように思う。個人的には「ジレ」という言葉を発するのは少し恥ずかしい気がする。現時点ではこの言葉を使ってもいいのは業界の中にいる人たちだけなのではなかろうか。一般に浸透するのはもう少し時間がかかるだろう。
もっとも、発信者がどんなに頑張っても広まらないトレンド言葉というのもある。業種は異なるがサントリーの「ハーフロック」というのがそれ。「ハーフロック」はウイスキーの飲み方のスタイルなのだけど、日本の洋酒のトレンドを作り続けて来たサントリー様があの手この手をつくしてキャンペーンを打ってもこれがさっぱり一般に浸透しないんだ。事実、酒場で「ウイスキーをハーフロックで下さい。」なんてセリフ聞いたこともないし、そんな注文するオヤジがいるってことを想像しただけで痛々しい。
サントリーの方は社を上げて開始したキャンペーン、やめるにやめられないようで、たぶんもう10年ぐらいハーフロック、ハーフロックって言い続けている。かっこ悪いからやめちゃえばいいのに。まあ「ハイボール」みたいに一度死んだ言葉やトレンドを蘇生させるのが得意なサントリーだから、この先どうなるかはわからない。もしかしたらそのうちハーフロックな時代がやってくるのかも知れない。
話は大きくそれたが、チョッキのことはまだしばらく「ジレ」ではなくて「ベスト」と呼ぶことにする。他に呼びようがないからそう呼ぶだけのことで、特に「ベスト」に強い思い入れがあるわけではない。むしろ、言葉の響きとしてはあまり好きではない方に入るような気がする。たぶん「bestを尽くす」方の「ベスト」という言葉が嫌いだからだろうなあ。「ペスト」だとすごくかっこいいんだけど。ちなみに「ペニス」」という呼び方は嫌いじゃない。「ヴェニス」も好きだ。
あ、また話がそれた。
僕は長い間、仕事着としてベストを着用してきた人間なので、仕事以外でベストを着ることを意識的、あるいは無意識的に避けてきたように思う。若者のようなベストオンTシャツみたいな着こなしは真似できないし、そもそも自分の服に合う着回しのできるベストを所有してもいない。でも待てよ。ワークウェアという概念を取り払ってしまえば、これほど多彩な組み合せができる便利なアイテムは他にはない。中着としても外着としても使え、カジュアルな雰囲気をゴージャスに、固いイメージをワイルドに。ジャケットの上に重ねたり、シャツの裾をわざとに出してみたり、。
そんなこんなで今シーズンはベストを新しく4着買った。単純にシャツ1枚でも4種類のバリエーションがある(ベストを着ないというのも合わせると5種類だ。)わけだから、これにジャケットやらパンツやらの組み合せを考えると、考えられるコーディネートは何百通り、この夏はもう服は何も買わなくていいかも知れない。
写真 VEST:2着ともENGINEERD GARMENTS
*写真左のパッチワークのベストはリバーシブル。更にバリエーション数が増える。