コーヒー

ボブディラン。筋肉痛をツイードのセットアップが包んでいる。睡魔が目の奥の方で澱んでいる。。いつもの席には中年の男が背中を丸め、無心でスマートフォンに文字を打ち込んでいる。例の蝶ネクタイがまた別のスタッフの首元に移動している。コーヒーを受け取る時に彼女の冷たい指が僕に触れる。中年男が何かを思い出しかのように突然立ち上がりいそいそと店を出て行く。僕は男の去ったテーブルに着く。男性スタッフがテーブルを拭いてくれる。ダスターの水分がしばらくテーブルに残り、気化していなくなる。ふてぶてしい態度の太った白人が携帯電話で部下、あるいは取引先に大声で指示をあたえながら店内をおりの中の動物みたいに行ったり来たりしている。テーブルの上で何かの影が揺れている。コーヒーの水面に無数の細かい水の粒がたたずみ、湯気となって立ち上がる順番を待っている。視界の隅の方で女性スタッフが窓ガラスを拭いている。飛行機雲が二本の螺旋に分かれながら静かに南の方向に移動している。頑固なブーツがようやく僕の右足に馴染みつつある。いつものいつものパーキングエリア。いつものコーヒーショップ。10時12分。5時12分、バンクーバー。

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